sábado, 29 de diciembre de 2007

やくざライターの掟・・・それは仁義

ヤクザ専門誌と呼ばれる雑誌には、
多くのヤクザたちが華々しい生き様を語るべく登場している。

しかし、世の中にはさらに危ない雑誌が存在する。
ヤング実話誌とジャンルされる雑誌である。
その怪しげなグラビアや記事には、
ヤクザ業界誌のように業界の重鎮たる任侠人は登場しない。
登場するのはイケイケの真っ最中の世代、
任侠道という言葉を無視しているようなさらに危ないヤクザ、
暴走族、過激右翼、凶悪犯罪者、
ネオン街のデンジャラスな人種たちが登場する。

何よりも過激な内容が要求されるために、
先のヤクザ専門誌のようなヨイショ&提灯記事も少ない。
そんな危険取材をする専門ライターには、数々の恐怖の瞬間と、
それらの経験によって体得したタブーや取材テクニックが存在する。


私はその危ない取材で食っているフリーライターなのである。
その世界ならではの掟や取り決め、慣習を知り、
常に変化している暴力世界の情勢や組織間のパワーバランスまでも
頭に入れておかねばならない専門職なのである。
・・・知らなかったでは済まされないことも多い。


そのせいで、恫喝、脅迫、はたまた拉致された経験もある。

取材の段階で、私に同行する不慣れな編集者やカメラマンは、
初めて足を踏み入れるヤクザ事務所内の威圧的な光景や、
彼らの眼力や迫力に恐怖して萎縮してしまうことが多い。
そういうことは実は恐怖ではない。
…本当の恐怖は、
その記事が誌面となり発売されてからやってくることが多い。

・・・・・・抗議だ。

記事内容に間違いや気に入らない部分があった際には、
彼らには常識的な時間など一切関係がない。
こうした恫喝の電話がすぐさま鳴ることになる。

『手前ぇ!この野郎!すぐ事務所に来い!』 
早朝の電話で私は恫喝された。
図太い声で叫び続ける電話の主はヤクザ幹部、
事務所というのは紛れもなく暴力団事務所である。
私は早朝から怒声を繰り返すヤクザ幹部が指摘する雑誌の誌面を確認した。


・・・これかぁ。彼の抗議は飲み込めた。一枚の写真の配置である。
ある放免祝い(刑務所からの出所祝い)で関係者の写真をずらりと並べた中の一枚であった。

『俺がどうしてコイツより写真が後なんだ!』
ヤクザの世界では長い歴史の中で築かれた独特の掟や
絶対不可侵のルールが存在する。
・・・と同時に、ヤクザは力と見栄の世界に生きている。
そのため彼らが重要視するものに貫目(かんめ:度量)や座布団(序列)と言われるものがある。
他の登場人物より自分の写真の扱いが悪いとの抗議であった。
『俺はこいつの兄貴分と兄弟分なんやぞ!』
・・・こちらは掲載の際に取材窓口となった関係者に写真配置の確認を取って了承を得てはいるが、そんなことは言えるわけもない。
さらなる揉め事を作り出すことにもなる。
彼が指摘する人物(こいつ)は小さいながらも組織の重要な役職にある。
それを考慮した配置であったが、彼にはそれが気に入らなかったのである。

しかし、不思議なことに助けられる。
私が事務所に駆けつけると、すでに彼の怒りは収まり、
『お前だからいいや。ムカつくから、もうこの話はするな』と笑顔で迎えてくれたのである。
『お前とはそういう仲じゃないしなぁ』
このヤクザ幹部との普段の信頼関係に助けられたのであろうか? 

・・・実はこれは彼の策略でもあった。
弟分たちの前で器量を見せ付けると同時に、
普段から俺に気を使えという私に対する牽制でもある。
この抗議はこの結末がベストとなる・・・こういうヤクザならでの判断と種まきは後々に何らかの形で生かされるのであろうか?
私もまたひとつヤクザの世界に生きる人間の行動原理を勉強させられた。

ヤクザ記事で気を使うのは序列だけではない。
彼らの組織名や役職、稼業名(本名で活動しない人間は多い)と呼ばれる個人名などは重々しく難解な漢字も多い。
私たち専門ライターにとっては簡単な理解が、
取材に付き合わされる編集部員には難解であるらしい。
ヤクザ社会には独特な階職名がある。若頭、舎弟、若中、直参・・・、
組織が近代化してゆく過程で登場した理事長、幹事長・・・、
一般社会での役職と同じであろうが、どちらが上なんだと悩まされる。
組織のトップの呼称である組長、会長、総長・・・、
この親分は会長なのか総長なのか? 
組織名もそうである。「会」を「會」、「国」を「國」といったような漢字表記も多い。
一般誌なら「山口組」とだけ書けばいいのだろうが、
ヤクザライターはそういうわけにはいかない。
「六代目山口組」と代目が冠に付くのが山口組の正式組織名なのである。
一般報道であの国を通称で報道しても、必ず冒頭で一度は正式国名を表明せねば抗議されていたのと同じようなものであろうか?
(ちなみに誤解がないように申し添えますが、山口組はあの国のようにイチイチ抗議はしません!)
また「○○会(役職)○○一家○○三代目(役職)○○組(役職)」と長く続く組織・役職名などはどこで区切ればいいのやら・・・(笑)
編集部員は悩み続ける。
我々の扱う組織名は一般企業の社名などの株式会社が前なのか後ろなのか…、う~~ん、どっちだっけ?よし!外しちゃえ!では済まされないのである。


ある編集部員の恐怖の失敗談がある。
「山口組・三代目○○一家」を「山口組三代目・○○一家」と区切ってしまったのである。
前述のとおり現在は六代目である。代目を外す以上の愚かさであった。
取材先、関係者、フリークからの恐ろしい抗議が彼を襲った(笑)

組織名や業界事情に疎いその編集は、
その後も驚愕の事件を巻き起こした。
友人のヤンチャ系の作家が執筆したグラビア記事で事件は起きた。
誤変換させたまま組織名を掲載したのである。
そのグラビアに登場した人物が、組織の枝葉の人間ではなく、
当代(総長・トップ)だったから大変である。


その作家先生の行動は素晴らしかった。
翌日の午前には、はるか地方都市にある組織本部の門前に立っていた。
それを受けた親分も素晴らしかった。
迅速な行動と謝意に感じ入って一切を不問にすると同時に、
その作家先生を大歓待したのである。
親分の約束通りに抗議の電話は一本もなかったことは言うまでもない。
一本の抗議電話が逆に親分の顔を潰すことになるからであろう。
それがヤクザの世界でもある。


これらのミスを回避するために、
私は組織の役職一覧や可能な限りの関係者の名刺を集める。
インタビューの途中で組織名や個人名が出た場合には、
チェックしておき、インタビューを終えて改めて確認する。
それも必ず名刺や公式的な回状(業界リリースのようなもの)や
郵便物などで名称や表記の確認をしてもらう。
わざわざ所属する組織に連絡してもらい確認したこともある。
彼ら自身も誤認している場合や、役職などが変更された場合も多く、
ここで遠慮して確認作業を躊躇すると、あとで大変なことになってしまうのである。
これはそういう怖い経験をしたからこそでもあるのだが・・・・・・。


ところで、誌面を見ると彼らは雄弁に語っているが、
実は大変な苦労がある。
・・・喋らないのである。
彼らは男の世界に生きているために寡黙を美学としている人物が多い。タレントや文化人ではないのでインタビュー慣れもしていない。
テープが回りだした途端に黙ってしまう親分衆は多い。
私は最初の取材は糸口を掴むだけ、
その後の雑談や後追い取材が本当の取材だと考えている。

どこかで聞いたことや読んだことを延々と語る親分もいる。
ある時、いくつかの取材が重なってしまい、
執筆の際にテープを聞き返すとどの親分もまったく同じことを話しており、頭を抱え込んだこともあった。

そのために子分や組員たちにさりげなく周辺取材をしておく。
ところがある若い衆はこう言った。
『子が親をどういう人物だと語ることは、親を評することと同じだ。それは許されない』
・・・素晴らしい答だが、取材なんですから、お願いしますよぉ!

逆に話が弾んでしまい、とんでもないことを語りだす親分もいる。
現在進行中の抗争の真実や捜査中の事件の裏側などである。
そのまま使えるわけがない。
美味しい話だからとそのまま掲載すると、とんでもないシッペ返しが待っている。
その辺の境界線も重要である。
これらは話の裏の裏まで取ることが重要なのである。
敵対する組織の悪口を延々と語って、
必ず使えと脅迫まがいの親分もいた。
・・・また電話が鳴るんだろうなぁ。
そのまま掲載できるわけはないので、
その言い訳を考える憂鬱な日々が続いた。

ところが、その組織との抗争が本当に起きてしまい、
相手に刺激を与えるから掲載を中止してくれと親分からお願いされて事なきを得た(笑)
ラッキ~~~!
……なのか?

ヤクザライターが困り果てた時期があった。
山口組の六代目襲名・組織改編で業界が騒然としている時期である。
國粹会(…ちなみに、国粋会ではなく、この表記が正しいのですよ)が山口組入りしして都内は緊張状態に至った。
そのせいで、関東の組織が一斉に取材拒否となったのである。
『こういう時期に浮かれて、チャラチャラと雑誌なんかに出ていられるか』
実はある親分からこう耳打ちされた。
『雑誌に出て顔バレしていれば戦争が起きたら的になる』
そんな馬鹿な?考えすぎだろう?と思われるかもしれないが、
これは大げさなことでも何でもない。
彼らならではの危機管理なのである。
信じられないだろうが、実際にそうなる可能性は高い。
「あの親分は雑誌に出ていたな。よし!殺れ!」
その組織の人間なら誰でもいい…ありえる話だ。

この時期の取材拒否には悩まされ続けたが、
表紙に山口組最新情報と書いているだけで雑誌が馬鹿売れし、
それらの使い回し記事を書くことで、ヤクザライターはバブル状態に結果的になったのである(笑)


カメラマンにも苦労やタブーは多い。普段はモデルなどを撮影しているカメラマンは『目線を下さい』などと言っておきながら、
ファインダーを睨む彼らの殺気にビビってしまうようだ。
手ぶれ補正しとけよっ!
・・・それだけではない。
『この親分は断指しているので気を使え』
『親分の背後の総長の写真額は絶対に欠けないようにしてくれ』
『この親分は背が低いので下からのアオリで撮ってくれ』
・・・さまざまなヒソヒソの指示が私から出る。 

ある幹部を取材した際には、奇妙な指示がカメラマンを困惑させた。
雑誌には左右のページがあり、右ページなら左向きの顔というように、どちらのページにも対応できるように左右正面とカメラマンは被写体を撮り分けておく。
その幹部は左頬に刀傷があった。
その記事は抗争事件の裏話だ。
どうしても刀傷のある顔を使いたかった私は、右からの撮影をカメラマンに禁じた。
右顔の写真が一枚もないのだからしょうがない
・・・そう言い訳するためである。
幹部を刀傷のある顔しか撮影できないように、奥の席に案内するとカメラマンにウインクした。
後で聞くとその時のカメラマンは大変な恐怖だったようだ。
シャッターを押して、その幹部が何気なくカメラマンを見るたびに、
彼は『・・・スミマセン』を連発した(笑) 
この幹部の写真は抗争の裏側を語った文章にマッチして、
実に迫力があり、読者からの反響も絶大だった。
思えば禁断の取材テクニックだったのかもしれない。

前述のように写真には最大限に気を使う。
ヤクザ事務所には破門状や通達状が張られていることが多い。
何台かある電話にはフロント企業と呼ばれる会社や幽霊会社の名札が付けられていることもある。
それらの写り込みをチェックすることも、
ヤクザライターには大切な仕事なのである。

彼らにゲラ(誌面掲載のまま)チェックしてもらうと、
まず間違いなく自分の写真を真っ先に気にする。
そのために掲載時にチェック不足の文章が問題にされるケースが多いのだが(笑) 

ある親分から写真が気に入らないからと何枚も取り替えさせられたこともある。
『どっちも同じだよ!』と叫びたくなってしまった。
その親分は自腹で写真館に出向き、羽織袴の写真を新たに撮影して
『これを使ってくれ』と持参した。

ある組織は組員の数を多く見せようと、関係者を大集合させた。
スーツ姿で呼び寄せられた男たちの中には、サンダルやスニーカーが混じっていた。
・・・どうしたかって?
画像修正してサンダルを革靴に変えました(笑)


ヤクザライターは彼らの生の人間性を見ることになる。
世間では暴力団と呼ばれ、犯罪者集団であるとされている男たち。
彼ら自身も実はそれを否定してはいない。
我々が彼ら独自の価値観やしきたりを理解しているかどうかを彼らは瞬時に見抜く。
それらを知ることが我々の絶対条件である。
しかしながら彼らとの付き合いで最も大切なのは、
信頼関係の構築でもある。
それは彼らが第一に考えている「仁義」であるように思える。


ヤクザライターとしての仁義・・・それが最大の掟、
それを裏切ることが最大のタブーなのである。

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